カラティのユースセンター(Kallahti youth center フィンランド・ヘルシンキ市)

2023年11月24日

私たちの訪問:2023年9月7日
話をうかがった相手:ヴオサーリ(Vuosaari)地域のユースワークユニットの責任者 Kaisa Kivelä さん
<以下の内容は、訪問時現在の内容です>

カラティがあるヴオサーリ地域について

Kaisaさんは、ヴオサーリ地域のユースワークユニットの責任者だ。まず、地域全体のユースワークについてお話を伺った。

このヴオサーリ地域はヘルシンキの中でも人口が多く、約4万人の人が暮らしている。両親が海外にルーツを持ち、子どもはヘルシンキ育ちという家庭が多い。そうした背景もあり、この地域で働くユースワーカーは特に多様性を大事に働いているという。

地域には2つのユースセンターと、バイク整備を行うプキンマキ・エンジンワークショップがある。加えて、地域に出て若者たちにかかわるアウトリーチ、学校内ユースワーク、ヨポという特別なニーズを持つ若者への学習支援なども行なっている。そして、やりたいことがないという若者たちにむけたプロジェクトやユースセンターに来ていない若者も含めた「若者全体の声」に耳を傾ける活動も大事にしている。

カラティのユースセンター

ユースセンター全体をめぐる動画が本記事の末尾にありますので、どうぞご覧ください。

カラティユースセンターは、3階建てで体育館を備えており、この地域で最も大きい。体育館の他、レコーディングスタジオ、手芸工芸ができる部屋、ガールズルーム、キッチンなども備えているので活動の幅が広い。

体育館があることから、スポーツを中心にした活動も多い。

夏休みのサッカーは、地域全体の楽しみ

フィンランドの夏休みは、6月初めから8月半ばまでである。ヘルシンキ市民の多くは7月になると家族で旅行や別荘に行くが、ヴオサーリ地区の多くの家庭は、旅行などいかず、地元で過ごす。そのためユースワークの需要は高い。

秋冬は寒さからあまり野外での活動が行えないが、夏にたくさんの人が参加できるサッカーは、フィンランドで人気がある活動だ。そこでカラティユースセンターでは、サッカーをはじめ多くの若者が参加できるプログラムを準備し、夏休み、毎日100人から200人の子どもたちが参加する。

サッカーはもともと仲のよいメンバーがグループでプレイすることも多い。そこでワーカーは様々な人と交流できるように、場所を貸すだけでなく、他チームとの場所の共有や、合同チームを促すなど働きかける。

また、マンネリ化しないように、今年は特に大きなトーナメントを企画したり、普段関わりの少ない家族を巻き込んでいこうと父母参加型のサッカーの試合も行った。

さらにもうひとつの工夫は、16才から17才の若者を月8名ずつ、アルバイトの指導員として雇用したことだ。活動中のけんか、小競り合いも起こるが、見守られながら、彼らだけで小さな問題をいろいろ乗り越えていく。実際はサッカーという競技をするよりも、学べることはたくさんあるという。

みんながいられる、夏休みのカフェ

夏休みのオープンカフェも開催する。これは「自分たちでカフェを運営したい」という子どもたちの声から始まった。ユースセンターのキッチンを開放して調理し、建物の外のスペースで開催している。

ユースセンターは住宅街に隣接しているため、当初「子どもたちは集まらず、近隣の大人の憩いの場になってしまうんじゃないか」という不安もあったという。しかし良い感じに若者たちが集ってくれたのと、大人は値段を倍にするなどの工夫することで「あそこは若い子たちが行く場所なんだな」と住民たちはわかってくれた。若い子たちの邪魔をするわけではないけど、「コーヒーだけ買わせて」と訪ねてくれるなど、近所ともよい関わりを持てた。

カフェは飲食しなくてもいい空間で、大きなスペースにはボードゲームなどを置いて、「ただ座って、おしゃべりするだけでもいいんだよ」とした。すると「サッカーに興味ないけどユースセンターに来てみたかった」という活発な活動に参加しない若者たちもたくさんやってきた。また、カフェの店員側になって運営したい活発な子どもたちは、「手作りの」パンやトースト、スムージーを売る体験をした。パンの焼き方を指導したり、お客さんが来たときの注文の取り方などの対応を考えたり、社会を経験できる機会になった。

カフェの空間は、ずっとなにもしゃべらず座っている子もいれば、一生懸命働いている子もいる。売り手でも買い手でもなく、ただワーカーへ話しかけたり、ワーカーからも声をかけたりと、オープンなスペースになった。

Pulssi(やりたいことが何もない若者たちに向けたプロジェクト)

ある調査によると若者の10パーセントは自分が何をやりたいのかわからないという。そんな若者に向けたPulssiというプロジェクトがある。カフェ、サッカーと違い、「やりたいことがわからない」「大きなグループには行けない」という若者対象の事業で、これまで43の活動があり、1回で終わるものも、続いているものもある。内容はホームページやポスター掲示で紹介している。また「やりたいものがその中になかったら相談して」「やっているユースセンターが遠かったら相談して」とよびかけている。春、すべての学校に「やりたいことはないですか」とアンケートを採る。そこで例えば「乗馬がしたい」「パンを焼きたい」などの答えがあれば、その学校にユースワーカーが出向き「回答した誰か、よかったらやってみない」と声がけをしている。

ワーカーが具体的計画に導いていくこともあれば、若者だけでできる場合もある。例えば「ピクニックに、女の子だけでいきたい」という要望もあったという。発案者に理由を聞くと、多文化の環境で、家族に「女の子は家にいなきゃダメという」「おうちの手伝いをしなければダメ」と言われる友人がいるという。でも「女の子だけでなら、その子も出られるかもしれない」「だから今回は“女の子だけ”の冠をつけてもらいたい」とその理由を話してくれた。なお、そんな相談もできる場所として、「女の子専用(Girls Only)」の部屋も設けられている。

ほかにも「女の子だけの中学生のスイミング」「動物を飼っている人が集まって、動物のことを話したりする」プロジェクトなどもある。子どもたちの興味関心のあるものをグループで取り組み、その過程で友だちづくりや仲間を増やしていく。

「興味がある」から始まるグループワークが、アイデンティティにつながっていく

やりたいことや興味のあるものに集中して取り組くむことで、自分自身のアイデンティティ、自分に必要と思えるものを持てるようになってもらいたい。それは、特別大きなものでなくても良い。「大きな活動をやっているように感じるかもしれませんが、“ちょっと来てよかったな”と思ってもらえるようなグループワークをたくさんやっています」とのことだった。

カラティユースセンター内部をめぐる
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