私たちの訪問:2013年9月13日
話をうかがった相手:ユースワーカーのザフィリスさんとヴォリネンさん
<以下の内容は、訪問時現在の内容です>
プキンマキ・ユースセンターは1986年に設立されたユースセンターだ。
建物の1階にこのユースセンターの特徴であるバイク整備場があり、市が直営している。2階は市から委託を受けた団体(YMCA)が運営しており、ロビー、プレイルーム、ビリヤード場など一般的なユースセンターの機能をもっている。
バイク整備場は、ヘルシンキ市内45の公設ユースセンターのうち、4か所にある。(近隣のエスポー市やヴァンター市にもある)。1960年代以降、フィンランドではスクーター(モポ)が流行した。しかし事故が多いため、若者がスクーターの乗り方を学べるよう、1980代からバイク・ユースセンターが設置されはじめた。
バイク整備場では部品交換も修理もすべて無料。利用の年齢下限はなく上限は23歳。他のユースセンターと同じように、部屋の改装から修理工場に購入する工具まで、すべて若者の声を反映して運営している。単なるサービスや部品の提供場所にはしない。
バイク・ユースセンターとして、ここでは数年前から始まったストリートワークも重要なプロジェクトだ。最近ヘルシンキ周辺では再びスクーターが流行し、週末になると、パーキングに15-17歳の若者を中心に500台ほどのスクーターが集結し、そこから何十台かのグループ単位で走りに出る。彼らにとっては、趣味を共有できる唯一の場だという。グループは地域ごとに形成され、走る順番は自分たちで決めたリーダーのもと、協議で決める。一部の速度違反や改造行為をのぞいて、ほとんど違法行為はない。多くはごく普通に学校に通う若者だ。
こうしたなか、ユースワーカーは毎週金曜日、ストリートワークとして、自らスクーターに乗って若者たちにアプローチする。先週も700台のモポ集団に、3人のワーカーでついて、11時間走り続けた。若者グループは本来大人の参加を認めないが、バイク・ユースセンター利用者の若者の紹介で、ユースワーカーの参加が可能になった。今では若者たちは違反切符をきる警察よりユースワーカーの関わりのほうがいいというようになっているという。
バイクに乗る若者の間で、ここの2人のユースワーカーは有名で、結構いろんな話をする。2人がいると、若者もムチャすることはなく、信頼する大人がいることで、安心して走る。また隣のヴァンター市には女性のバイクユースワーカーがいて、ストリートワークのベストパートナー。一緒に走ることが多く、2割を占める女の子たちへの対応は、彼女がやってくれている。
他に、練習場を貸し切って、安全な運転技法を学ぶ活動も行っている。学校に出かけ、交通安全ビデオを見せるプロジェクトも行う。こうして若者たちに安全な運転を呼びかけ伝えるとともに、社会に対しては、若者たちのこうした活動が悪いものではないことを伝え、理解を求めていく。
フィンランドでは日本以上にバイクのイメージが良くない。子どもたちはお酒を飲んでいるわけでもなく、警察が厳しいので無免許運転もない。「あなたたちは大人以上にちゃんと乗って、見本をみせなさい」と、若者たちには伝えている。彼らの側にも、実は社会に対していろいろ言い分や要求がある。そんなことから、そうした自分たちの声を社会に届けようと、最近NGOが生まれた。現在160人ほどのメンバーがおり、ユースセンターと協働して行事を行ったりしながら、順調に発展している。
ただバイク・ユースセンターの仕事は、朝から夜までかかり、普通なかなかできない。そこで、ここでは2年間働いたら休んで良いことになっている。
ここでは最近、15歳から20歳の若者25人がボランティアで1年半かけて、あるビデオ映像をつくりあげた。企画、編集、撮影をすべて若者たちで行った。
フィンランドには交通安全教室があるが、若者からすると、つまらなさすぎるという。そこで、「文句いうなら、自分たちで良いと思うビデオをつくれば?」とかけた一言から、このプロジェクトははじまった。中学2年生にみせることを意図してつくられている。
先日ユースセンター内で試写会を行ったばかりだが、ワーカーの立場から、つくり手の意図が見る側に伝わるかどうかをチェックした。およそOKだった。
つくり手たちが最も注力したのは、ダメなのは分かっているけれど友達にあおられて、巻き込まれて走るパターン。そうしたときに「ノー」といえるか、自分で判断できるかだ。映像には幾度もそうしたシーンがでてくる。
映像には学校もでてくるため、まずヘルシンキ市教育庁の幹部にみせ、「一応許可します」と了解をとった。ただ各学校でみせるかどうかは、校長の裁量に任される。現在2校の許可はとった。まだまだこれから彼らの闘いは続く。成功のニュースがあれば広がるだろう。(その後、この映像は表彰を受けた)
映像づくりはユースワークのひとつの手段である。この活動を通して若者たちはどう変化しただろうか。中心メンバーは6名。彼らは自分でどう計画し、取り仕切り、自分たちが言いたいことを人に伝えるか、とりくんできた。彼らはプロジェクトに‘やみつき’になった面があり、次のバイクイベントでも企画に参加することになった。ほぼ毎日ユースセンターにきている状態だ。
おわり
10年後のヒアリング報告
お話をうかがった日:2023年09月07日(木)
お話をうかがった相手: Dimitrios Zafirisさん
<以下の内容は、ヒアリング時現在の内容です>
バイク・ワークショップのあらまし
今回、残念ながら急なご事情で、プキンマキ・エンジン・ワークショップを訪問することはできなかったが、マネージャーのディミさんが、夏休み中にも関わらず我々のもとに来てくれて、お話をしてくれた。ディミさんは23年もユースワーカーをされている大ベテランだ。
ヘルシンキ市内にはバイクのワークショップが4か所ある。モポと呼ばれる小さなバイクを整備できるところが2つ、その他の大きなバイク、車が整備できるところが2つだ。そのうちの3か所はユースセンターと合体した形になっており、バイク好きな若者が集う場となっている。基本的には13歳から22歳までの若者が利用でき、利用時には会員カードを作る決まりになっている。ヘルシンキにはバイクを整備できるところが少ないため、とてもニーズがあるとのこと。またはじめはヘルシンキ市だけにあったが、今ではエスポー市やヴァンター市にも同様な施設が増えてきている。
ヘルシンキ市内にはディミさんのようなバイク・ユースワーカーが以前は9人いたが、今では3人になってしまった。バイクのワークショップの職員はユースワーカーの資格だけではなくバイクの知識、子どもの安全・命を守るための特殊な知識も必要になる。特にバイクの知識に関しては、バイク大好きが集まるワークショップにおいてその子たちと同等、それ以上の知識がなければ信用を得られず尊敬されないため、レベルの高さが必要だ。それ故、新たな人員がなかなか見つからない課題がある。
(右写真は、ヘルシンキ市内のエンジン・ワークショップ全体を紹介するHPより)
エンジンワークショップでやっていること
ワークショップ内には整備に必要な器具や道具がそろっており、若者たちが自分のバイクを持ち寄って自由にバイクをいじれるようになっている。また一般のユースセンターと同様に若者の成長の促進、支援を目的としているため、バイクがメインであるがその他の活動もできるようになっている。例えばキッチンで料理教室、スタジオで音楽、学校の宿題ができるスペースなどがある。それらは、利用者の若者たちや地域住民の声からできていったものである。
独立記念日には豆スープを作って町の人に配りたいとの声があがったため実際にやってみたが、なかなか大変だったらしい。また夏にはバイクでツーリングやキャンプをするなど、野外活動もある。加えて2018年には交通安全を題材にした映画を利用者の若者たちが作り、中学校で教材として使われている。こんな風に、バイク整備だけではなく若者のためにさまざまなことをしているそうだ。
夏はバイクの季節らしく、若者がバイクを見せ合うために何百人も集まることもあるそうだ。その場にユースワーカーが行き若者たちに声をかけ交流し支援を促す活動も行っている。声かけやキャンプ、ツーリング企画などは3つの市のユースワーカーが協力して行うことも多く、年2回は3市合同ミーティングを実施するなど、互いに協力して活動を行っている。
(右写真は下記の同ワークショップHPから)
近年の変化
ここ10年ぐらいでバイクに乗る若者が変わってきていることをDimiさんは少し案じている。昔はただ純粋にバイクが好きな若者という印象が強かったが、今では麻薬、アルコールといったようなリスクを伴っている可能性が増えている。またバイク乗りの間での関係が薄れてきて、まとめるリーダー格がおらず、バイク乗りの世界の秩序が崩れてきているともいう。加えてSNSの出現により、バイクを壊すといった過激な動画を撮り再生数を稼ぐといった不純な動機でバイクに乗る者も現れ始めているという。